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menu. 021「夕暮れカクテル」

真夏の夜だ。
ぢーぢーと夏虫が啼いている。
昼間の熱気も夕暮れ近くなれば、少しはマシになるかと思いきや何と今夜は熱帯夜だとか。

ただでさえ一年中、天然の毛皮を背負っている獣人の俺には、この夏と言う季節が死ぬほど辛いんだが。
まぁ愚痴ったところでどうする事も出来ないので、仕事の帰りにいつものカフェに立ち寄って涼を取る事にした。

「ばんわ〜」

客が少なくなった夜のカフェ。
カウンターに陣取り、ふうと溜め息をついた。

「いらっしゃいませ。」
マスターが笑顔で声を掛けてくれた。

「もう、俺みたいなケモノには辛いんですわ、この季節〜」
そう、眉間にしわを寄せて話すと
マスターが
「いやぁ、今年は筒媛様が非常にご機嫌斜めでして、さらに猛暑が続いてしまっているようですよ」
と苦笑いして答えた。

うええ、マジかよ。
ここのところ、頻繁に祭が開かれると思ったらそういう事か…。

「ご機嫌を損ねたって…何かあったんですかい?」
と、つい訊いてみた。
すると

「いや、別に我々が原因という訳では無いようですよ、ただ」
言葉尻を濁したマスターが慌てて注文を促してきたんで、今夜のお勧めの酒をと答えた。

なんだ?俺らが原因じゃないって、なんだ?

首をかしげていると、マスターが澄んだ色合いのカクテルを持ってきてくれた。

「疲れが取れる〝やわらぎソーダ〟を使ったカクテルですよ。さぁどうぞ」

ふむ。
ありがとうと答えて、受け取ったグラスを口に付けた。
柑橘系の中にミントの爽やかさが効いた、のど越しの良いカクテルだ。

「いや、ここだけの話なんですけどね」
と、小声でマスターが話しかけてきた。

「実は、先月の末の事なのですが、四季の女神様のうち筒媛様と竜田媛がふとした事で言い争いになり、大喧嘩になったそうなのですよ」

ありゃ。
しかし、このマスターってこんな事を話す奴だったっけ?
「えー、マジっすか」

「ワタシめも、余りそういった噂話には首をつっこまない様にしているのですが、今回は多大な迷惑を被りまして…」
…苦笑しながらマスターが話した。

話を聞くと、その夏の女神さんと秋の女神さんが、季節の恵みをどんだけ皆に提供出来るかで言い争ったらしい。
争いごとが嫌いな佐保媛や、普段物静かな冬の宇津田媛が激怒してしまう程で、もうそれはそれは大変だったのだそうだ。
そのトバッチリを受けて、あちこちの街や里で異常気象めいた状態になる事がしばしば有り、作物の不作が起きたり工芸品が巧く生産出来なかったりしたとかなんとか。
このカフェも、そういった材料の仕入れがままならなかった時期があったんだろう事は想像に難くなかった。

元々気難しく、まさしくご機嫌がコロコロと変化する女神様達なので、扱いが難しいんだろうなと肩をすくめた。
祭司さん達も大変だw

客が少なくなった店内で、二人してダラダラと無駄話をしている
「あっ、カクテルが冷たい内にお召し上がり下さいね」
と、と思い出した様に笑った。

おっと、せっかくの美味い酒だ。
では、有り難くカクテルを堪能するかな。