番外02「櫻音」
2013年4月11日
申し訳ありません、お客様。
せっかくおいで頂いたのですが、ワタシめ今から出かけなくてはならないのです。
ええ、もしお時間がございましたら…せっかくですし、ご一緒いたしませんか。
今から行く場所はさほど離れておりませんので、歩いて参りましょう。
目的地は、奏(かなで)の郷にある調べの森でございます。
そこには1年の内…春のこの夜にしか手に入らないものがあるのですよ。
森の奥、玻璃湖と言う名の湖がございまして、そこにしか咲かない「音櫻」と言う花がございます。
咲くとき散るときに涼やかな音色を奏でるのですが、それはそれは愛らしい音色で、それを愉しみに湖を訪れる好事家も多いのですよ。
数度訪れるこの「刹那の月」と呼ばれる月の夜。
月光を浴びながら玻璃湖の水に触れると、この音櫻の奏でる音色だけが大変美しい結晶となるのです。
音だけで出来上がった花びらの形をした結晶なのですよ。
その小さな花びらの中に、その咲き散る際の愛らしい音を封じた…ね。
さて、そろそろ到着です。
おお、良かった…さすがにこう寒いと来訪者も居ませんか。
その結晶は、こういった真冬の如く寒い春の夜にこそ質の良いものに仕上がるのですよ。
あ、くしゃみをされるなら、少し離れたところでお願い致しますね!
何せ他の音が混じると質が落ちてしまいますので。
ワタシは先に行っておりますので。
では、お先に失礼致します。