menu.40「夏ノ夕暮レ」
2013年8月1日
日中の暑さも、夜が近づくにつれ若干とは言え収まっていく。
じんわりとまとわりつく暑気を払うべく立ち寄るのはいつもの店だ。
「いらっしゃいませ」といつも通りの柔和な笑顔を見せながら店主が近づいて来た。
—暑いね。
「お暑うございますねぇ。これでも、まだ7月が終わった所ですから…これからが思いやられますな」
—そうですね。
苦笑いする私に、「今日のお勧めは」とメニューを差し出しながら話してくれた飲み物を注文してみた。
な、なつのた…?
「…お客様…なつのゆうぐれ、でございますよ」
くそぅ、判ってるよ!ボケてみただけだいっ。
内心、そう悔しがりながら…一瞬読み間違えた事は黙っておく。
滲むような朱色(あけいろ)の太陽を思わせる光を沈め、上からゆっくりと降りていく藍色はまさに,今から夜が訪れるのだと言う風な色合いが美しい。
一口飲み、やんわりと広がる涼やかな口触りは,見た目に反して優しい。
遠くで、夏虫のヂィ、と言う鳴き声が聞こえた気がした。
夏の夜が始まる。