menu.44「聖夜珈琲」
2013年12月12日
あくせくと働き、1年が過ぎて行く。
華やかな春を越え、情熱の夏を過ごし、長き夜の豊かな秋が過ぎていく。
この店にはいつも驚かされていて、不思議な飲み物やデザートや料理に色々と想いや心を映す。
街の中はクリスマスムード。
人恋しい季節だ。
ひとり、街へ出かけて来たものの行く宛てもなく、ふらりとまたやって来てしまった。
「ようこそ、ご来店頂きましてありがとうございます」
柔和な笑顔を浮かべ店長が出迎えてくれた。
「そろそろクリスマスですね」
にこにこと笑いながら、そもクリスマスとは…と蘊蓄を語りながら空いている席へと誘って貰い、適当な場所へ落ち着いた。
勧められた珈琲を注文して、ぼんやりと窓の外を眺める。
愉しげなクリスマスソングが流れる中、恋人同士や友達同士、あるいは親子連れが行き来する。
こちとら独り身で色恋沙汰には無縁だよ、ちくしょう。
しばらくして、運ばれてきた珈琲は想像を裏切らず不思議なものだった。
そっと覗くと節減に柔らかい光をちりばめたクリスマスツリーを模したモミの木が見える。
ふりつもる雪(の様なもの)がカップの中で、踊る、おどる。
香る珈琲の匂いはそのままに、そこには静かな聖夜を思わせる風景がゆらめいていた。
かすかに鈴の音が聞こえてきた、気がする。
クリスマスが過ぎれば慌ただしく年末、年の瀬へと雪崩れ込み、そして新年を迎える。
来年には善い事があればいいなぁ。
ふと顔を上げると、外にはちらりほらりと雪が舞い始めていた。
聖夜はいよいよ明日だ。
全ての人達に善い夜が在りますように。
心の中で、そっとメリー・クリスマスを告げてみた。